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コロナとカリフ、フェミニズム

· Ideology

こうも異常事態が続くと、ついこの前まで当たり前だった感覚を失いそうになる。最後にインドネシアに行ったのは3月の初旬で、ちょうど日本人経由で初の感染者が出たと発表された翌日だった。入国時に止められたりしないかが気になったが、現地はいたって平穏だった。3月末日に東京で企画していた研究会は参加者も数人の予定だったので、その数日前までは実施するつもりだった。

さて、ずっと机に張り付いていると、インドネシアのツイッターのトレンドに「#MuslimahTolakGenderEquality」(ムスリマはジェンダー平等を拒否する)とあるのに気付いた。いや、こういう超保守的なハッシュタグがときどきトレンド入りしているのには気付いていたのだが、時間もあるのでちょっと追跡してみた。インドネシア人にしてはフォロワーが極端に少ない無数のアカウント(しかも一部はアイコンまで同じ)から、似たようなフェミニズムを攻撃するメッセージが書かれた画像―フェミニズムによる「ジェンダー平等」は西洋によるプロパガンダである、といった内容が垂れ流されている。明らかにトレンド狙いの組織的な情報操作である。上のタイトルの背景はそのアカウントが並んでいる画像。

インドネシアでは、日本以上にフェミニズムという言葉にはまだ抵抗が強い。男女間の異なる役割を強調し、父権的な家族像が政府のプログラムにも組み込まれている。こうした考えが「宗教的に正しい」と考える人々も多い。

ツイートのリンクを辿ると予想どおり、旧インドネシア解放党のニュースサイトに案内された(解放党非合法化の経緯はコチラ)。なぜ解放党かといえば、すぐ目に付くところにカリフ制(イスラーム国家)の実現を主張する記事が配置されているからだ。「カリフ制とコロナ、その関係は何か?」というタイトルで、インドネシア政府のコロナ対策を批判し、カリフ制になればいかに良い政策が実現するのかが示されている。たしかに3月以降、(我が国に負けず劣らず)インドネシア政府高官からは耳を疑うような発言が相次いでいる。発足から半年あまりの第二次ジョコウィ政権にわずかに残っていた期待も消えてなくなった気がする。1000人に1人ぐらい、カリフ制に託してみようと考える人がでてきても不思議ではない。

それにしても、フェミニズムへの反感で釣って、カリフ制に連れて行こうだなんて、控えめに言っても卑怯だ。ただ逆に考えれば、これはインドネシアでもフェミニズムが相当ポピュラーな言説となっており、彼(女)らに「脅威」に写っている証左ともいえるだろう。かつてリベラル派を躍起になって攻撃していた勢力の一部が反フェミニズムに転じている。

実際、フェミニズム関係のアカウントをフォローしていると、毎日のように関連の研究会が開催されている。それがすべてウェブ開催になっているので、日本にいても簡単に参加できる。「テレワーク」期間のフィールドワークはもっぱらこういう作法になりそうである。