サイトへ戻る

インドネシアの新型コロナ対策まとめのまとめ

東南アジア最大の2億6千万ほどの人口を抱えるインドネシアは、新型コロナの発症者数15.5万人(死者6680人)を記録している。100万人当たりの発症者数561人はフィリピン(1730人)の三分の一ほどだが、死者数の割合だとそれほど変わらない。目に入ってきた範囲で日本の報道をみると、相変わらずのセンセーショナリズムか表層をなぞったようなものばかりなので、メモがわりにまとめておくことにする。

人口当たりの感染規模が日本とそれほど変わらないのに死者が多いのは、やはり元来の脆弱な医療システムの問題が大きいだろう。医療関係者の死者も多く(8月1日時点で医師72人)、一時期は毎日ソーシャルメディアに亡くなった方の写真入りの医師会からのお悔やみメッセージが流れていた(プライバシーの感覚は相当違う)。

政治的に最大の論点となってきたのは、第一に感染対策のためにどの程度経済活動を抑制するのか、第二にとくに貧困層への支援をいかに効率的に届けるのか、という問題であった。この二点は、どの国でも問題になってきたことであるが、貧困層と脆弱なインフォーマルセクターの従事者が多いインドネシアでは、とくに深刻である。

中央政府が経済を止めることに躊躇し、地方政府が突き上げる構図は、インドネシアも同じであった。インドネシアは、権威主義体制期の中央集権から1998年の民主化後に大幅な地方分権化に振れ、部分的に中央が権限を取り戻すという軌跡を経てきた。したがって、中央と地方との権限がちぐはぐな分野があり、混乱を大きくした。社会の活動制限は中央の権限で、地方政府は中央からの許可がないとできない。他方で、公衆衛生については地方に権限がある。ただ、自治体が細かいゾーニングをして、自粛の程度を決める方法が定着しつつあるようにみえる。

貧困層への支援は、社会的支援(Bantuan sosial)と呼ばれる制度があり、主として生活必需品の現物支給が行われてきた。ここでの問題は、配布すべき人のデータの不備、予算の不透明さ(重複による非効率や汚職など)。公職選挙法があまりにも緩いので、首長が自分の名前入り(写真入りまであった)の物品を配布する例も多々あった。

中央と地方の関係を規定する、いま一つの重要な制度的背景がある。それは選挙である。ジャワ島のジャカルタ、西・中・東ジャワの4州の州知事は、いずれも2024年大統領選挙の候補者に名前が挙がっている。しかも現職のジョコ・ウィドドは次は立候補できない(レームダック化はさらに進行していくだろう)。したがって、コロナ対策の成果による業績投票が起こりうる一方で、メディアでのパフォーマンスと足の引っ張り合いに終始する可能性もある。いまのところメディア露出だけでもそこそこ支持率が上がっている。

私には、発言の内容もコロナ対策も西ジャワ州知事のリドワン・カミルが一番まともにみえる。西ジャワ州は初期に感染者数が多かったが、その後比較的落ち着いている(西ジャワ州は人口数が一番多いが、感染者数は5番目)。これが大統領選にどう影響するか。まあ、そんなことを考えずに対策に専念してもらいたいところだが、リドワン・カミルも自分がデザインした布マスクを名前入りで配布している。

なお、コラムを頼まれたのでまとめ始めたのだが、英語にもなるということで違う話題にした。英語では読みやすいものでもすでにいくつもあるので。小文も以下を参照しています。日本のメディアもこのぐらいは押さえて書いて欲しい。